人生を変えた鶏皮串の話
仕事のスピードを上げても成果に結びつかないことがあります。
なぜなら仕事が早い遅い、よりも大切なことがあるからです。
私がワタミで本部長なんかさせてもらえたのは、この鶏皮串から得た気づきのお陰と思っております。
鶏皮串さんありがとう!
もしそのコツを知らなければ、私はそこそこ仕事の早い課長さんくらいで人生を終わっていたでしょう。
さて、話は私が生まれて初めてアルバイトをしたときに遡ります。
バイト先はワタミとは別の居酒屋です。
「おいー!皮だけ持っていくんじゃねーよ」
私は、配膳係だったので焼き上がった鶏皮を持っていこうとしていました。
奥の焼き場からそんな怒声が飛んできたのです。
焼き場の先輩に怒られて開眼する
「馬越ー、焼き場見てたらわかるだろー?もうすぐ、ねぎ間串も焼き上がるんだから一緒に持ってきゃいいじゃん。一緒に持ってったら時間の節約になるだろ?」
バイトを始めて二日目か三日目だったかと思います。
初日はチヤホヤされてましたが、もう怒られました。
なにしろ私は手際が悪かったのです。
怒られながらも18歳で社会に出たばかりの私は、「たしかに」と納得していました。
同時に
「す、すげえ。みんなあの忙しい中で、自分の目の前だけじゃなく他の人の動きも計算して動いてるのか!」と感心してたわけです。
「そうかー、仕事ってなかなか奥が深いな。」
ということで
私は、なるべく無駄がないように動くことを覚えたわけです。
釜飯が上がるところと刺身の盛り合わせのタイミングを見計らったり、ドリンクのタイミングも測れるようになりました。
だんだん力をつけていった私は、片付けをほめられたりして「仕事が早い」と、周りのバイトの先輩の役に立つということを学んでいくわけです。
そこまで一年くらいかかるわけですが。
そしていつしか、私が後輩のアルバイトに同じように指導することになっていきます。
「おいー、皮だけ持っていくんじゃねーよ。」
私は凝り性なので、効率性を追求することで、通常二人でこなすような場面も一人でこなすことができるようになりました。
仕事の速さはなかなかのものだったと思います。
店長や社員から役に立つと思われていたのでだんだんリーダー的な存在になっていきます。
そんなふうに育ちながらバイト三昧の後、3年後私は就職活動をする時期となりました。
そこでワタミの渡邉美樹さんの話を生まれて初めて聞くわけです。
ワタミの就職説明会で人生観をひっくり返される
当時、私はイケイケのバイトリーダーでしたが外食産業に就職するつもりはなかったんです。
どうせなら世の中にインパクトを与えられるIT業界みたいなかっこいいところへ就職しようと思っていました。
外食は、それほど好きではありませんでしたが、仕事は好きだったので就職した会社でも活躍したいと思っていました。
出世して社長にでもなれたらいいなぁくらいの考えです。
そのためには、いまいる飲食店1店舗くらいは軽く運営できないといけないと思ってました。
飲食店一つ運営できずに会社を経営はできないなぁと思ってたんだと思います。
要は外食産業を舐めていたわけです。
一見イケイケの学生でした。
しかし、実は飲食店のリーダーとして悩みがあったのです。
それは、自分のお店の売上前年比がだんだん落ちていくことです。
私が入社した年にオープンしたお店だから下がっていくのが当たり前だとは思ってました。
しかし、心の中では「俺がリーダーやってんのにこんなもんなのかなぁ」と思っていたわけです。
「この数字を変えられなきゃ、就職しても役に立たないなあ。何か将来経営するのに秘訣が必要だなあ。」と考えながら就職活動してました。
そして迎えたワタミ入社説明会。
後々メンターになる渡邉美樹さんが自ら登場して熱く説明してくれます。
そこで、ものすごいカリスマ性と壮大なビジョンに圧倒されました。
当時ナンバーワンの説明会だったかと思います。
渡邉さんは当時、年齢は37,8歳だったかとおもいます。
いやー世の中こんな人間いるんだなぁと。
感銘受けました。
私は長渕剛さんの大ファンだったのですが、正直、同格かそれ以上だなこりゃ、と思ったわけです。
(のちに渡邉さんと、長渕さんが東北の復興のために携帯のメールでやりとりしてたのを見せてもらった時も熱かったですが、それはまた別の話)
とにかく話はスケールが大きく、そして自分の人生に役立つ話ばかりでした。
しかし、渡邉代表の話の中でひとつだけ解せない話がありました。
実は、居酒屋「和民」というのは、元々は「つぼ八」さんだったんです。
渡邉代表は、こうおっしゃってました。
「ワタミは、一番最初つぼ八の高円寺店を買い取って運営してました。
つぼ八のメニュー、つぼ八のサービス、つぼ八の内装、つぼ八の看板、当然つぼ八のアルバイトさんを引き継ぎました。」
そして続けます。
「そんな中で、店長だけ変えたんです。店長が変われば店が変わる。
そして、つぼ八高円寺店はワタミが経営したら売上が2倍、利益は10倍になったんです。」
売上2倍、利益10倍?
私は自分のお店が三年目でドンドン売上が落ちてたんです。
そんな中で、店長を変えたら売上が2倍って・・・。
「嘘なんじゃないか?学生と思って適当に言っているんじゃないか?」と思いました。
その後、質疑応答があったので聞いてみました。
売上2倍、利益10倍の和民
「同じお店を運営して、売上2倍、利益10倍とは信じられません。そんなことありますか?」と直球をぶつけた訳です。
これが、私と渡邉美樹さんのファーストコンタクトです。
その時の回答は今でも運命の回答だったと思っています。
質問を受けて渡辺代表は、まずこう回答しました。
「ああ、それは簡単です。
アルバイトのみんなは、店長が言えば掃除をしてくれます。
しかし、ただ掃除するのと、お客様のことを思って掃除するのではピカピカが違うんです。
それがお客さまに伝わるんです。
ワタミはとにかくお客さまのことを思うことについては異常な会社なんです。」
私「ほおお、そういうもんなんだ。なるほどねえ。たしかにそうかもなあ」くらいの反応だったと思います。
まあ、でも長渕ファンでしたから「言霊の力はある」と思ってましたんで、「わからんこともない。意識は伝わる」とは思いました。
でもそこからが渡邉美樹さんのすごいところなんです。
普通の学生なら先程の回答で満足したのでしょう。
でも、私はあまり腹落ちしていなかったのかもしれません。
表情に出ていたと思います。
そこでちょっと納得していない私を見て渡辺代表は続けたのです。
「それと、普通の居酒屋ではこういうことをします。
鶏皮串が焼き上がりますよね。
そうしたらホールの人間が持っていきます。
だけど、たいていの居酒屋では『一緒にネギ間串も焼きあがるんだからちょっと待って』と言ってそれも一緒に持っていく。
ワタミではそれをしません。
鶏皮串が焼き上がったら焼き立てをお客様のもとに届けよう。
そして走って帰ってくればいいじゃないですか。
2回往復してもいいじゃないですか?
それが、
『お客様のことを思う』ということです」
と言ったんです。
これにガツーンと来ました。
私には衝撃でした。
一つ目のお話で私が納得しなかったので、すぐに二つ目の話で私に伝わるように切り替えたのです。
そしてその上で
「それがお客様を思うということです。」
そう言ったんです。
「そうだったのか」
私は思いました。
外食のアルバイトを始めた時に受けた一番最初のアドバイス。
「鶏皮とねぎ間は一緒に持っていけ、その方が早いだろ」
これは、自分達が楽をするためのアドバイスです。
そのアドバイスには「お客様を思う心」が抜けていました。
つまり目的が抜けていたのです。
私は、ある時から仕事は早い方が良いと思って、どんどん仕事の効率化を進めて行ってました。
おかげで仕事は早くなったんです。
しかし、お客様のことはすっかり頭の中にはありませんでした。
そしてそれを注意する人は一人もいませんでした。
それがおかしいと思う人はいたかもしれないけれども、一人で二人分の仕事をする馬越の機嫌を損ねてはいけないと思って気兼ねしていたのかもしれません。
そして仕事を早くすることに夢中になりすぎたのでしょう。
いつしかお客様のことを最優先ではなくお店のことを優先していました。
目的、つまり「お客様を優先すること」を意識していないとお店優先になっていくのだなぁと思いました。
そんなお店優先の人間がリーダーになっていたのです。
後輩たちにも同じような教育をします。
渡邉美樹さんの話を聞いて「そりゃうちの店が売れるわけないな。」と思いました。
私の学生時代のアルバイト人生3年間が完全否定された瞬間です。
しかし、否定されても、がっかりしませんでした。
むしろワタミの一挙手一投足、その全てに「お客様を思う心」を乗せる徹底度に感動したんです。
そして、私はその日のうちにバイト先のみんなに手紙をしたためもっていきました。
「馬越が間違ってました。ワタミさんでこういう勉強してきました。今からみんなで直していこう」と。
それにしても今考えても不思議です。
鶏皮串、、、。
私が、飲食業のバイトを始めたばかりの時に注意された鶏皮串。
その3年後に、私のことを知る由もない渡邉美樹さんが鶏皮串の例を用いてワタミのことを説明してくれたんです。
100人くらいいる説明会であった一青年の質問。
しかも、私の勘が悪く一つ目の回答では伝わらなかったために、即座に伝わる言葉で説明し直しされました。
これはこれで、ちょっと神業だと思います。
しかし、私の人生を決めましたね。
鶏皮串が。
リーダーシップとマネジメント
そしてその年にベストセラーとなった「7つの習慣」という本を読むと、こんなことが書いてあったのです。
リーダーシップとマネジメントの違いです。
似たような意味合いで取られてることも多いです。
鶏皮串と7つの習慣の合わせ技で理解しました。
私にはリーダーシップが不足していたということです。
ちなみにリーダーシップとはどちらの方向に向かって進むのかという方向性を指し示すことです。
一方で、マネジメントはその指し示された方向に向かって、効率よく、管理・コントロールしていくことだと定義されています。
↑馬越は、「マネジメント」を3年間のアルバイトで学んでいたわけですね。
コヴィー博士は、個人のリーダーシップに関して、「多くの人たちは、梯子に登り始めて、それが掛け違いだったことに気づく。つまり、どこに梯子をかけるのかというのが私たちの中のリーダーシップであり、その梯子を能率・効率よく登っていくのがマネジメントの役割である」と説明されています。
馬越の外食人生は、完全に違うところへ梯子をかけていながら、それを疑うことをしなかった3年間でした。
しかし、やる気はあったのでその梯子をいかに早く登るかには長けていたんですねえ。
ですが人生においても、仕事においても、まずリーダーシップ、すなわち目的地ありきでなければ、マネジメントは機能しないか意味がない、あるいは逆効果を招くということです。
目の前にある梯子を早く登ることに注力しすぎて、間違った梯子を登ってることに気づかない。
コヴィー博士は、そういう人がいかに多いかと言われてます。
私だけじゃないんだなあ、と一安心したものです。
でも目の前のことに一生懸命な人ほど、梯子のかけ間違いに気づかないんじゃないかなと思います。
それにしても、間違たところに梯子をかけていたと認めるということは、なかなか怖いことですよね。
今までの人生が間違っていたと、認めることになるので。
だから、あえて目的地を問うということをするのを避けている人もいるかもしれません。
でも多くの人が、なんとなく高校に進んで、大学行ったり、就職したり。
その場の流れで人生を決めてこられていると思います。
私もそうでした。
なんとなく決めた人生だけども、与えられたら一生懸命やってしまうのが人間ですよね。
人間みんな一生懸命だと思います。
でも、方向を間違ったまま進んでも永遠に目的は達成しません。
速く走れば走るほど、速く仕事をこなすほど間違った場所に早くたどり着くだけです。
だから怖いけど梯子を掛け替えないと成果出ませんです。
偉そうに言っていますが、梯子のかけ間違いに気づきを得てたあとも、決して順風満帆ではありませんでした。
私は、入社後も何度も梯子をかけまちがいます。
今でもかけ間違えているかもしれません。
ですが、私は梯子をどこに掛けるかを常に問うクセがついていました。
試行錯誤していたらだんだん間違えなくなってきました。
一生懸命やっているのに成果が出ない時は、目的を見つめ直すといいのかなと思います。
多分私は、これからも鶏皮串を食べるたびに「自分の人生の梯子かけ間違ってないか?」問い続けるでしょう。